
2025.05.14
ジンズのたねまき
「まだ見ぬ、ひかり」を地域とともに目指す。JINS地域共生事業部の挑戦とこれから
JINSが掲げるビジョン「Magnify Life – まだ見ぬ、ひかりを」の実現と、持続可能な社会をつくる取り組みの一環として、2021年9月に創設した「地域共生事業部」。さまざまな施策を通して、地域の交流を生み出してきました。
めずらしい部署だけに、「どんな活動をしているの?」「何を目指しているの?」と質問をいただくこともしばしば。そこで今回、地域共生事業部の立ち上げから現在までの歩み、そして今後の展望について、責任者を務めるシニアディレクター 白石にインタビューを実施しました。
取材の舞台は、JINS発祥の地 群馬県前橋市にある「JINS PARK」。聞き手はライター・森川紗名さんです。
みんなの公園「JINS PARK」
取材で訪れた「JINS PARK」。青々とした芝生の庭を横切り建物の中へ入ると、目の前には屋上テラスへと続く大きな階段が現れます。自然光がたっぷり差し込むその空間には、併設のカフェベーカリー「エブリパン」で購入したコーヒーを片手にくつろぐ人や、絵本を読む子どもの姿が見られました。

─── JINS PARKは、買い物を目的に来る施設というより、まるで憩いの場のようですね。
おっしゃる通り、ここは公園のような「みんなの場所」をコンセプトにしています。「人が集まる場所をつくりたい」というジンズホールディングス代表取締役CEO 田中仁の思いを、建築家の永山祐子さんが形にしてくださいました。
施設内にベーカリーカフェ「エブリパン」を設けたのも、日常的に食べるパンを通して、街の人たちとたくさんコミュニケーションをとりたいと考えたからなんです。

ベーカリーカフェ「エブリパン」
─── 来店されるお客さまには、小さなお子さん連れの方が多い印象を受けました。芝生の庭や開放的な屋上があり、子どもたちものびのび過ごせそうです。
親と子どものための空間をつくることは、CEO田中の強い希望でもありました。というのも、JINS PARKがある川原町周辺には、親子でゆったり過ごせる場所があまりなくて。
授乳室やおむつ替えスペースもあるJINS PARKを、親子連れのお客さまの「拠点」として使ってもらい、気兼ねなく周辺のお店もたのしんでほしい。地域共生事業に関わるようになって、僕自身もそんな思いを抱くようになりました。
─── 田中さんや白石さんが見つめる先にあるのは、自社店舗の成長だけでなく、地域の人のよろこぶ姿や、街全体の活性化なんですね。
はい。まさに、JINS PARKの運営テーマは「企業における公共とは?」なんです。地域共生事業部のメンバーも、ここを拠点のひとつにしながら、どうすれば地域の力になれるかを日々考えて、行動しています。

新規事業本部 地域共生事業部 シニアディレクター 白石将
ベンチャースピリットが生んだ「地域共生事業部」
─── そもそも地域共生事業部は、どんなきっかけで立ち上がったのでしょうか?
2021年4月にJINS PARKがオープンしてしばらく経ったころ、施設には子どもからご年配の方まで、幅広い年代のお客さまが来てくださるようになりました。その光景を見た田中が「ここを拠点に、地域をもっと元気にする活動ができるのでは」と考えたんです。
田中は思い立ったら即行動の人なので、その日のうちに僕に連絡がありました。2人で2時間くらいじっくり話し合って、「よし、まずはやってみよう」と。
─── アイウエアが主力の会社で、まったく別分野、しかも他に事例のない事業を任されることに戸惑いはなかったですか?
JINSのビジョン「Magnify Life – まだ見ぬ、ひかりを」には、「まだ誰も知らない可能性にひかりを当て、世界中の人々の生き方そのものを豊かにしていきたい」という思いが込められています。そのビジョンに照らして考えると、JINSが地域共生事業を担うことに違和感はありませんでした。
それに、何事もやってみないとわからないですから。田中自身が「まずやってみよう」の精神で道を拓いてきた人。そのベンチャースピリットは僕を含め、社員一人ひとりにしっかり受け継がれていると感じています。今回のチャレンジにも自然と前向きな気持ちで向き合えました。
地域の可能性を拡大する、5つのグループ
─── 地域共生事業部とは、ズバリどんな組織なのでしょうか? 業務内容を教えてください。
僕たちはJINSのビジョンを自分たちなりに解釈し、「地域の可能性を拡大する」ことを目標に、5つのグループに分かれて活動しています。
まず、「地域共生事業グループ」は、JINS PARKでのイベント開催や「群馬ビジネスキッズチャレンジ」など近隣地域を巻き込んだ企画を通じて、地域との関係づくりと活性化に取り組んでいます。
「イベント運営グループ」では、アートをテーマにしたワークショップを実施したり、地域のアーティストと協業して手で触って「見る」ことを体験する「かるた」を制作したりと、アートを媒介にした地域交流の場をつくっています。
「飲食事業グループ」は、ベーカリーカフェ「エブリパン」と、コーヒー事業「ONCA COFFEE」を運営し、食を通じたコミュニケーションの場を提供しています。
「ノーマ事業グループ」は、障害のある人とない人がチームを組み、前橋市で農作業に取り組む特例子会社「株式会社ジンズノーマ」とともに、地域で多様な人材が活躍できる環境づくりを進めています。
「JINS GO事業グループ」は、移動式メガネ販売車JINS GOで、JINS店舗のない地域やご来店が困難な方のもとへ訪問し、JINSの商品やサービスを提供。能登半島地震が発生した際には、被災地支援としてメガネの無償提供や他社製品を含めたメガネの修理を実施しました。

移動式メガネ販売車「JINS GO」
一見バラバラに見える取り組みですが、すべてのグループが「地域の可能性を広げる」という共通の思いでつながっています。
利益ももちろん大切ですが、たとえば飲食事業は「食」を通じたコミュニケーションの場の創出が目的ですし、JINS GOもメガネを売ること以上に、地域の不便を取り除いて人々の生活をより豊かにすることが本質なんです。
場所をひらいて、地域の力を引き出す
─── 地域活性化への貢献方法として、協賛金などのかたちで地域に出資するやり方もあると思います。あえてその手段を選ばないのはなぜでしょうか?
お金だけを手段とすると、瞬間的な効果はあれど、長期的な成果につながりづらいだろうと考えているからです。それよりも、たくさんの人が集まる場所を新たにつくったり、挑戦したいと思っている人の自走をサポートしたりするほうが実りが大きいと思っていて。
そのための施策のひとつが、JINS PARKでのイベントです。JINS主催でアートのワークショップを実施したり、地域の団体や個人作家さんを巻き込んでマルシェやお祭りを開催したりしてきました。

2023年夏に開催した縁日「PLAY! SUMMER~JINS PARK~ 2023」
1年半ほど前からは、企画主催者を一般公募し、地域の人たちの力だけで実施いただくイベントも開催しています。JINS PARKの広場を無料で貸し出し、僕らが管理している備品も自由に使っていただいているんですよ。
─── 場所や備品の貸し出しも無料とは、ほんとうに「公共」の施設のようです。それにしても、なぜ公募をはじめたのでしょうか?
以前、JINS主催のマルシェをきっかけに出会ったクリエイターさん同士が一緒になって、別の場所でイベントを開いたことがありました。こういう「挑戦したい人」の背中をそっと押すことが街の活気につながるのではと思ったんです。
人手をかけすぎると継続できなくなるので、基本は地域の人だけでイベントを運営してもらい、僕らは場所を貸すだけ。JINSからは必要に応じて1名の担当者が、運営のアドバイスを行ったり、ときには応募者同士をつないで共催イベントとしてアレンジしたりと、イベントがよりよいものになるよう調整しています。
その結果、現在公募イベントはほぼ毎週末開催されています。毎回大変なにぎわいで、駐車場が足りなくなるときもあるほどです。そんなときは、嬉しいことに近隣の塾や洋服店が快く、駐車場を貸してくれるんですよ。
相手を知り、尊重する。信頼からはじまる地域共生
─── いち企業の取り組みが、ここまで地域に溶け込み、街のにぎわいにつながっているとは驚きました。話の端々から地域との強いリレーション(関係性)を感じるのですが、どのように築きあげたのですか?
一番大事にしているのは、相手を知り、尊重することです。相手を知らないまま一方的に提案しても、受け入れてもらえませんから。これはメンバーにも常に伝えています。
立ち上げ当初は、メンバーと一緒に自治体へ挨拶しに行ったり、街の催しに顔を出したり、学校機関に足を運んだりと、地道なコミュニケーションからはじめました。そうすることで信頼が生まれ、街の課題も少しずつ見えてきます。
事業部ができて10カ月ほど経ち、ようやく関係性ができてきたころに、印象的な出来事がありました。近所のスーパーが閉店するという情報を、住民の方が教えてくれたんです。
とくに高齢の方などは近所のスーパーがなくなってしまうと、買い物にも不自由します。そこで僕らが別のスーパーに相談したところ、近くの公民館まで移動販売車に来てもらえるようになりました。結果、地域の方々によろこばれ、僕たちもうれしかったですね。
─── 信頼が情報を引き寄せ、行動することでまた信頼が生まれていく。とても素敵な循環ですね。ただ、ひとつ気になったことがあって……こうした公共性の高い活動を、事業会社の中でずっと続けていくのは簡単ではないと思います。それでも続けてこられたのはなぜでしょうか?
一番の理由は、この事業にかけるCEO田中の情熱です。それに田中も僕たちも数値化できない成果や街の変化を徐々に感じてきていて。
もちろん現状に満足しているわけではありません。いずれは活動で得た資産を、いま以上にビジネスに還元していく必要があります。でも目先の利益ばかりを意識してしまうと、地域の人たちの心は確実に離れていってしまうんですよね。
だからこそ、事業部としての駆け出し期にあたる現在は、相手がよろこぶ活動を率先してやり続けることが大事だと思っています。「地域の人が笑顔になることだけ考えて、信頼を貯金していこう。結果はあとから自然についてくるから」とメンバーにも伝えていますね。

良好なリレーションから生まれるポジティブな変化
─── 先ほどおっしゃっていた「数値化できない成果」はどんなときに感じますか?
地域の人たちとのつながりを感じるときですね。JINS PARKでイベントを開催した人のうち、肌感覚ですが、だいたい3割ほどがメガネを買いにきてくれるんです。
しかも、ご自宅の近くにJINSの別店舗があるはずなのに、「JINS PARKのあの人と仕事したから」とわざわざJINS PARKまで足を運んでくれることもあって。まるで商店街のような、あたたかいリレーションができあがりつつあります。
─── 地域の方々と築いた良好な関係が、JINSブランドの認知度や信頼度を高めているんですね。
そうなんです。最近は新卒採用にもいい影響が出てきました。学生時代に地域共生事業部の活動に、インターンやボランティアとして参加してくれた学生のうちの何人かが、今年、JINSの新入社員として入社してくれたんですよ。
人事担当者の話では、僕たちの取り組みに関心を持つ新卒の応募者が増えているそうです。ポジティブな変化がじわじわと広がっている実感がありますね。
─── 最近の新卒採用では、給料などの待遇よりも、自分の価値観と企業のビジョンがどれだけマッチするかを重視する人が増えていると聞きます。地域共生事業部の取り組みを通じて、JINSのビジョンが伝わり、魅力を感じてくれたのかもしれません。
そうだったらうれしいです。この活動に共感して入社してくれた人たちが、前橋に限らず、各地域の人たちと深く関わりながら、成長していってくれることを願っています。

たねまきからの芽吹き。いよいよ次のステージへ
─── ここまでお話を伺って、地域共生事業部が4年かけて撒いてきた種が、いま芽吹きはじめているのを感じました。その芽をこれからどう育てていくご予定ですか?
これまでは「JINS PARKに人を集めて、地域に活気を生み出そう」としてきましたが、その目標は徐々に達成されつつあります。そこで次のステップとして考えているのが、「JINS PARK」という枠を取り払い、JINS PARKのある川原町エリア全体を盛り上げていくことです。
たとえば、イベント会場を近くの大きな公園に移して、もっと多くの人たちを巻き込むことも視野に入れています。会場を広げることで、駐車場が足らなくなるのなら、地域でシェアすればいい。エリアが広がることで、結果的にJINSにもいい影響がある。そんな活動をしていきたいです。
くわえて、この活動を通して集まってきた情報、つながりといった「資源」を、JINSのビジネスにどう活かしていけるかも考えたいですね。より多くの人にJINSを身近に感じてもらえるよう、少しずつ取り組んでいけたらと思っています。
いずれにせよ、商売を続けるうえで一番の怖いのは、地域から人が減ってしまうことです。群馬はとくに、ひとたび東京に出ると戻ってこない人が多い傾向にあります。でも、幼いころのたのしい記憶があれば、また帰りたくなるんじゃないかと思うんです。
10年、20年後に、地域共生事業部の活動に参加した子どもたちが「いい街だったな。あの場所でまた暮らしたい」と思ってくれたら、何よりうれしいですね。
CREDIT
執筆:森川紗名
撮影:飯本貴子
デザイン:株式会社ASA
編集:春田知子(株式会社ツドイ)