
2025.03.26
メガネだけじゃない話
頭の動きでクリック、ドラッグ&ドロップも。メガネをマウス化する「JINS ASSIST」登場!
デジタルデバイドの解消を目指して
ITが進化し、デジタルツールが生活の一部となった近年、ITを利用できる人とできない人のあいだに生まれる格差「デジタルデバイド」が社会課題になっています。障害の有無にかかわらず、だれもが自由に情報にアクセスできる社会の実現を目指して開発したプロダクトが、2月26日に登場しました。
頭の小さな動きで直感的にデジタルデバイスを操れる「JINS ASSIST(ジンズ アシスト)」。お手持ちのメガネに装着して使用するハンズフリーマウスです。上肢に障害のある方をはじめ、両手がふさがる作業をしながらデバイスを操作したい方など、多様なユーザーを想定して開発しました。

開発のきっかけとなったのは、2015年に発売したメガネ型ウエアラブルデバイス「JINS MEME(※)」です。JINS MEMEに搭載された技術の可能性に着目し、パソコンなどのコントローラーとしての活用を検討していたとき、障害のある人やご家族からこんな要望が届くようになりました。
「JINS MEMEでマウス操作ができたらいいのに」
「デジタルデバイスを使って、家族ともっと自由にコミュニケーションをとりたい」
こうした数十件にもおよぶ切実な声に後押しされて、JINS ASSISTが誕生しました。
※……JINS MEMEは、一般向け販売を終了しております。
お客さまの声を反映した、使いやすさと操作性
頭の動きだけで自由自在にマウスを操作できるJINS ASSIST。その特徴のひとつは、簡単に始められて、使いやすいことです。
使用の際は、わずか4グラムの小さな本体をメガネに装着し、パソコンと接続するだけ。有線だから、充電や接続が切れる心配はいりません。なお、JINS製品に限らず、ほぼどのメガネにも装着できます。

長時間でも疲れにくく、操作のカスタマイズができることもJINS ASSISTならではの利点です。頭の小さな動きだけで操作できるため、長時間の使用でも疲労感を抑えられます。また、補助ソフトの拡張機能を利用すれば、ショートカットの設定など、ご自身が使いやすいようにカスタマイズできます。

JINS ASSISTの開発には4年もの月日を要しました。この間にオープンテストを3度実施し、当事者や作業療法士の方々から意見を収集。その声を開発に反映し、当事者にとっての使いやすさと操作性を追求しました。
JINS ASSISTプロジェクトマネージャー 菰田は「当事者や現場の声を取りこぼさないように開発を進める過程は、苦労の連続だった」と振り返ります。
「はじめのプロトタイプは目の瞬きでクリックする仕様だったのですが、操作にかなりの疲労感が出てしまうので実用に向かず、一から作り直しました。
その後も『カーソルが絶えず動き回っていると、わずらわしい』『コマンド操作が複雑で、扱いづらい』などの課題が次から次へと出てきました。そのたびに、次の打つ手を考えて、一つひとつ試していく。その繰り返しでしたね。
結局、商品化まで3回ほど一から作り直し、プログラミングのコードは500回ほど書きかえました。改良の回数は当初の想定を大きく上回りましたが、手をかけた甲斐あって、当事者の方々のニーズに沿う製品ができあがったと思います」
必要とする人に届けるための「価格」と「販路」
JINS ASSISTを必要とする人に確実に届けるため、「価格」と「販路」にもこだわりました。
一般に販売されている製品は4万~20万円と高額な商品が多いなか、JINS ASSISTは15,000円(税込)。
ハードをアタッチメントタイプや有線にする、100%内製でソフト開発するなどの工夫で、手に取りやすい価格を実現しました。
また、障害のある方へも確実に情報を届けるべく、JINSオンラインショップ にくわえて、利用者40万人を超えるデジタル障害者手帳「ミライロID」内のオンラインショップ「ミライロストア」 でも販売しています。

群馬県前橋市と協業。eスポーツを通じた事前体験会を実施
JINS ASSISTが人々の生活に根付くよう、自治体、企業、団体との協業も、今後模索していきます。その取り組みの一環として、JINSは群馬県前橋市と地域の課題に向き合い、発展や市民サービスの向上を目指す、包括連携協定を2月26日に締結しました。
JINSと前橋市は「障害の有無にかかわらず、自身の世界が広がる体験をしていただきたい」との思いから「JINS ASSISTの事前体験会」を企画。JINS ASSISTを使い、eスポーツを通して交流するイベントを、2月12日に前橋市で開催しました。
当日、会場に集まってくださったのは、障害のある方々4名と、前橋市職員など4名。計8名のみなさんです。まずはJINS ASSISTを装着し、カーソル移動やクリックなどの基本操作を体験いただきました。

続いてチャレンジいただいたのは、JINS ASSISTを使ったeスポーツ体験です。ピンを正しい順番で引き抜いて、お宝の獲得を目指す「ピンぬきゲーム」を、みんなでプレイしました。

©2023 D3PUBLISHER
「むずかしい……」と唸りながら、練習を重ねるみなさん。次第に「できた!」という声や、笑い声が会場のあちこちから聞こえてくるように。15分ほどの練習で、操作にすっかり慣れた様子が見られました。

イベントの終盤には、eスポーツミニ大会を実施。印象的だったのは、会場を包む和やかなムードです。障害のある人も、ない人も、だれもがそれぞれのペースでゲームをたのしみ、お互いを応援し合っていました。

「障害を理由にパソコン操作を断念していたけれど、こんなに使いやすいツールがあるなら、これから挑戦してみたいと思った」
体験会終了後、障害のある方から、こんなうれしい声が聞かれました。さらに前橋市職員の方からは「たとえば電話をしながらJINS ASSISTでパソコン操作をするなど、障害の有無にかかわらずこの商品を必要とする人がたくさんいると思う。世の中にどんどん広まってほしい」との声も。
JINS ASSISTの可能性に期待をかけてくださった参加者のみなさん。運営スタッフたちにとっても「体験の場」をつくる重要性を改めて実感できる、いい機会になりました。

JINS ASSISTで、「情報のバリア」に変革を
そんなJINS ASSISTの発売がスタートした2月26日。JINS東京本社にて、記者説明会を実施しました。
障害のある方が向き合うデジタルデバイドの課題解消などを話していただいたのは、デジタル障害者手帳「ミライロID」の開発・運営を手掛ける、株式会社ミライロ 代表取締役社長 垣内俊哉さんです。

株式会社ミライロ 代表取締役社長 垣内俊哉さん
垣内さんは具体的な例や数字を用いながら、「日本は世界一のバリアフリー先進国ではあるけれど、『環境・意識・情報』の3つのバリアがまだまだ残っている」と指摘。そして、こう話してくださいました。
「日本のデジタル領域のバリアフリー化は残念ながら道なかばです。JINS ASSISTは、その現状に窮する障害のある人、ご家族、社会に、大きなインパクトを与えるでしょう。
JINS ASSISTは『障害のある人“でも”できる』ではなく、『障害のある人“だから”できる』を増やすきっかけを与えてくれるツールです。日常生活はもとより、学習、就労の面でも、その人の持つ可能性を最大化し、ひいては新たな雇用創出や人出不足解消にも貢献するだろうと期待しています。
さらには、見えづらく、聞こえづらく、動きづらくなった高齢の方にとっても有用だと思います。人口減少が避けられない日本において、JINS ASSISTは大きなポテンシャルを秘めたプロダクトなのです」
バリア(障害)をバリュー(価値)化することを企業理念に掲げるミライロならではの視点で、JINS ASSISTを評価してくださった垣内さん。講演の最後を、力強いメッセージで締めてくださいました。
「ビジネスの持続には社会性と経済性が重要です。つまり、きちんとマーケティングを行い、広がり、売れて、企業が利益を得る。こうした循環が不可欠なのです。
その点、JINS ASSISTは、社会性と経済性の両面を満たす、すばらしい取り組みです。当社のオンラインショップ『ミライロストア』での販売が、JINS ASSISTをさらに世に広める一助となれば、こんなにうれしいことはありません。
バリアフリーにおいて、ハードも、ハートも、そしてデジタルの領域も、日本が世界をリードする。そんな未来を、JINSのみなさんとともに実現していけたらと願っています」
未来を照らすきっかけを、一人ひとりに届けていく
ミライロさんという心強いパートナーの協力を得て、販売をスタートしたJINS ASSIST。販売直後から大きな反響があり、販売開始翌日には初回入荷分を完売しました。
想定以上に多くの人々が、JINS ASSISTを必要としている。その事実は、「JINS ASSISTで、一人ひとりの可能性にひかりを当てたい」と願うわたしたちの思いを、より強いものにしました。
昨日までできなかったことが、できるようになる。何気ない今日が、もっとよくなる。そんなきっかけを提供するJINS ASSISTを、JINSはこれからも一人でも多くの人に届けていきたいと思います。
CREDIT
執筆:森川紗名
写真:金子大清(株式会社ツドイ)*事前体験会を撮影
デザイン:株式会社ASA
編集:春田知子(株式会社ツドイ)