
2025.04.16
メガネだけじゃない話
JINS×MAZDAのドライビングサングラスが誕生!異色のコラボが紡いだものづくり秘話
2025年3月15日、JINSとマツダが共創した「MAZDA SPIRIT RACING ドライビングサングラス」(*)が発売されました。
*「MAZDA SPIRIT RACING ドライビングサングラス」は好評につき完売いたしました。再販売については現在未定です。

これまでにゲームやアニメ、アートなど業界の垣根を超えてコラボ商品を生み出してきたJINSですが、自動車メーカーとタッグを組んだのは今回がはじめて。マツダのものづくりへの熱いこだわりと、JINSのアイウエアの知見を活かして創り上げたサングラスは、一流のデザイナー・職人たちのこだわりが細部まで詰まっています。
このドライビングサングラスの発売を記念して、東京・南青山にある「MAZDA TRANS AOYAMA」で開発に携わったデザイナーによるトークセッションが開催されました。登壇したのは、マツダのエグゼクティブフェローであり「MAZDA SPIRIT RACING」代表・前田育男さん、マツダのデザイナーである南澤正典さんと菊地有美子さん、JINSのデザイナーである浅田敬一です。

共創のはじまり
そもそも今回のJINSとマツダの共創は、どのようにして生まれたのでしょうか。イベント冒頭、きっかけとなったある出会いについて、マツダ・エグゼクティブフェローの前田さんがお話されました。

マツダ株式会社エグゼクティブフェロー MAZDA SPIRIT RACING代表・前田 育男さん
「マツダはブランドの世界観をより深く表現するために、新車の発表に合わせてタンブラーやバッグ、キーケースなどドライブに関連するアイテムの発売を行っています。2021年に発足したマツダのモータースポーツサブブランド「MAZDA SPIRIT RACING」でもこの考えが受け継がれ、製造元となる企業のデザイナーやエンジニアと、マツダのカーデザイナーが知見を共有しながら細部までこだわり抜いたドライビングアイテムを開発しています。これまで『ドライビングシューズ』『ドライビンググローブ』『クロノグラフウォッチ』が発売されました。」

オブジェの横に並ぶMAZDA SPIRIT RACING ドライビングシューズ、ドライビンググローブ、クロノグラフウォッチ
この第4弾のアイテムとして前田さんが検討したのが、ドライビングサングラス。2021年、前田さんがあるイベントに登壇した際、同じく登壇者だったのがJINS 代表取締役CEOの田中仁でした。そしてドライビングサングラスの構想について盛り上がり「ぜひJINSでやりましょう!」と企画がスタート。足掛け約3年にわたる開発の末、発売に漕ぎ着けたのです。
フレームデザインへのこだわり

流線型のデザインが「光と影の動き」を表現
完成したサングラスのフレームを見てみると、スポーツカーのボディを彷彿させるようなスピード感のあるデザインに仕上がっています。このフレームデザインは、マツダが開発にあたり重視したポイントのひとつです。
目指したのは「日本人の骨格に合う」こと。彫りが深く鼻の高い欧米系の顔だちに合わせたサングラスは、アジア系のひとがかけた時に鼻の部分が浮いてしまうこともあるのです。今回は「日本人の骨格に合うサングラス」をテーマに、開発の段階で老若男女いろんなひとにかけてもらい、最適な角度を吟味しました。
そしてもうひとつが、フレームデザインを通じて「光の動きをカタチにする」こと。
マツダが創造するクルマのデザインと同様に「光と影の変化で動きを作る」ことを目指したそうです。

完成したサングラスを見てみると、フレーム上を光が美しく動いていくのが感じられます。まるでクルマが走行している時、ボディに当たった太陽光やライトの光が流れていくよう。この光の流れ方をこのドライビングサングラスのフレームでも表現したいと考えたものの、開発は困難を極めたのだそう。
マツダ・菊地さんは当時を振り返りながら、こう話しました。

マツダ株式会社デザイン本部 ブランドスタイル統括部 デザイナー・菊地 有美子さん
「車ではおおきなボディ全体を使って光と影の動きを作っていきます。それを小さなサングラスにどうやって落とし込めばいいのか。実現するのは大変でしたが、最終的にはサングラスをかけるブリッジの部分からこめかみ部分にかけて光が流れるように設計し、かけたひとがスポーティーで大人の表情に見えるようなデザインにすることができました。」
機能性を追求した素材選び

ドライビングサングラスのこだわりは、デザインだけでではありません。実際にサングラスをかけてみると、耳への重さは感じず、こめかみへのしめつけ感もありません。この機能性には、日本のメガネづくりの技術と工夫が凝縮されています。
JINS・デザイナーの浅田が解説します。

株式会社ジンズ グローバル商品本部 デザイナー・浅田 敬一
「最初はフレームの開閉部分に一般的なヒンジを採用していました。ただ、マツダさんの社内テストで『しめつけ感が気になる』とわかったんですよね。そこで、JINSの通常ラインアップではあまり見ることのないタイプの『ばねヒンジ』に設計を変更し、側頭部にかかる力を適度な状態に保つことで、しめつけ感を改善しました。また、『ばねヒンジ』を採用したことで、サングラスを上から見た時にデザインのバランスが変わるため、デザインの修正をお願いしました」
素材選びにおけるもうひとつのこだわりが、チタンを使うこと。鉄などに比べてチタンは4割ほど軽い素材です。長距離ドライブの際にかけていても疲れない軽さを実現しながら、金属の高級感も感じられる。この特徴が、チタンを選ばれた決め手でした。
そしてチタンは、金属の中でもアレルギーを起こしにくい素材といわれています。製造過程においてアレルギーが発症する可能性があるものを極力排除して、ストレスのない理想的な「ドライビングサングラス」になるよう素材選びにもこだわっているのです。

手に持ってみておどろくのが軽さ。チタンフレームを採用しているので金属の高級感も感じられます。
そして始まる、原型づくり
大量生産の前の原型づくりの段階においても、変わらずマツダチームの熱量は高かったのだそう。
とくに力を入れていたのは、コンセプトの一つであるフレーム内の「光の動き」。その実現のために、図面の検討だけでなく、銅を切削したフレームを3〜4種類試作し、実際の光の動き方を確認したそうです。
作り込んだ試作フレームを見た浅田は驚いたといいます。

「メガネづくりで3Dデータを活用することはありますが、マツダさんから出てきた試作品がとても高度なもので、改めてものづくりに対する熱意を感じ、『これは大変なものづくりになるぞ……』と改めて気が引き締まりましたね」
議論を重ね、フレームのデザインの枠組みが固まると本格的なものづくりのステップへと進みます。このフェーズでは浅田がJINSで蓄積してきたメガネづくりの知見を発揮しました。
JINSとマツダのデザイナーが向かったのは、メガネの聖地と呼ばれる鯖江。メガネ職人とともに、複雑なデザインを形にするための原型試作を行います。
現地に立ち会ったマツダ・南澤さんは職人の技術力の高さを目の当たりにして安心感を覚えたといいます。

マツダ株式会社デザイン本部 ブランドスタイル統括部 デザイナー・南澤 正典さん
「求める形が実現できるまで、長期戦も覚悟していたのですが、光の動かし方の希望を伝えると、それに呼応して僅かな調整をしてくれる職人さんの手の動きをみてすぐに『大丈夫だ』と確信しました」
マツダのフレームに対する想いとJINSのメガネづくりの知見が融合し、ドライビングサングラスは徐々に完成へと近づいていきます。プロジェクトの終盤ではお互いの関係性が深まり、より精密なやりとりが交わされていきました。

「この商品のフレームの幅は約8ミリなんですが、そのなかで0.1ミリ単位のデザイン修正や髪の毛1本ほどの微量な調整をお願いしました。『細かすぎるかな?』と心配したのですが、浅田さんが根気強く向き合ってくださって安心しました」と菊地さん。
それを受けて浅田は「メガネづくりでミリ単位の修正は一般的なことなんです。『コンマ3mm高い』『コンマ5mm動いたら別物』という感覚はメガネのデザイナーにとっても一般的な感覚なので、この点については平常心で対応できました」と笑顔で返します。
努力の甲斐あって、最終的に完成した原型は一発OKとなったのでした。
こだわりの設計を実現するために
こうしてドライビングサングラスの設計は完了し、ついに量産工程へ。フレームは複雑な形状をしているため、7工程のプレス成形を経て、最後はフレームの全周を切削することになりました。量産工程においても妥協なく、クオリティを重視したものづくりを経て、ついに完成したのが「MAZDA SPIRIT RACING ドライビングサングラス」なのです。

共創の結果、得られたもの
途中、コロナ禍による制約も受けながら、新車開発と同じくらいの約3年という歳月をかけて完成した商品の開発を終えて、3名のデザイナーはそれぞれ「ホッとしました」と安堵の息をもらします。

完成したドライビングサングラスは老若男女だれにでも似合う普遍的なデザインに仕上がりました。
異色のコラボレーションを経てJINSにも新たなものづくりの知見が蓄積されています。
これからもJINSはこれまでにない新しい価値を持つアイウエアの開発を実直に続けていきます。
※「MAZDA SPIRIT RACING ドライビングサングラス」の詳細は、ECサイト「MAZDA OFFICIAL GOODS SHOP」をご確認ください。
※JINS店舗、JINSオンラインショップでの取り扱いはありません。
CREDIT
取材・執筆:中 たんぺい
写真:芝山健太
デザイン:株式会社ASA
編集:春田知子(株式会社ツドイ)