JINS JINS PARK

2025.06.25

メガネだけじゃない話

【東京建築祭2025】オフィスをひらいて、まちとつながる。JINS東京本社ツアーレポート!

2025年5月17日から25日にかけて開催された、今年の「東京建築祭」。つくる人、使う人、守る人、それぞれの思いに触れながら、多彩な建築をたのしむ大規模イベントです。

「Magnify Life -まだ見ぬ、ひかりを」をビジョンに掲げるJINSは、「建築を通して、新しい視点でまちを再発見する」というイベントの趣旨に共感。2024年の初開催に続き、今年もプログラムに参加しました。

用意したのは、JINS東京本社の特別見学ツアー。じつはこの社屋、単なる「働く場所」にとどまりません。企業としての価値観や目指す方向性を体現した、特別な意味を持つ場所なのです。今回は、オフィスに込めたJINSの思いをお伝えするとともに、ツアー当日の様子をレポートします。

「ベンチャー魂を取り戻す」。本社移転の背景

JINSが飯田橋のインテリジェントビルから、現在の神田錦町へ本社を移転したのは、2023年5月のこと。その背景には、「社員が大企業病に陥りかけているのでは」という、ジンズホールディングス代表取締役CEO 田中仁の強い危機感がありました。

「広々として、洒落ていて、機能的。しかも駅チカ。そんな快適なオフィスに身を置いたままでは、安定志向から抜けられない。環境を変えて、ベンチャー魂を取り戻すきっかけをつくろう」

そう決意したCEO田中が次なるオフィスとして選んだのは、築年数が古く、もとのビルの半分ほどの広さ。立地もやや不便になる9階建ての賃貸ビルでした。さらには「地域の再開発のため将来的に取り壊し予定」という条件付き……!

そのビルを全面リノベーションし、社員のチャレンジ精神やクリエイティビティを刺激するオフィスをつくる。そんな難易度の高いプロジェクトを、建築家・髙濱史子さんが引き受けてくださいました。

建築家・髙濱史子さん

髙濱さんは、JINSのさまざまな職種の社員からなる「引っ越しプロジェクトチーム」のメンバーと協働しながらオフィスを設計。「壊しながら、つくる」「美術館×オフィス」という2つのコンセプトを導き出しました。

それらを掛け合わせて生まれた「建築を解体し、美術館として再構成する」をグランドコンセプトに、床を抜き、仕上げを取り払うなど、文字通り「壊しながら」大胆にリノベーション。さらに、国際的に活躍するキュレーター 長谷川祐子さんの監修のもと、コミッションアートやギャラリーを設置し、まるで美術館のなかで働いているかのようなオフィスを目指しました。

また、「あたらしい働き方」をデザインするため、引っ越しプロジェクトチームが知恵を出し合い、社内ルールや仕組みといったソフト面も再構築。JINS東京本社はまさに、髙濱さんと引っ越しプロジェクトチームが2人3脚でつくりあげた特別な場所なのです。

(引っ越しプロジェクトの詳細については、こちらをぜひご覧ください)

「あたらしいJINS」を体現するオフィス。じっくりご案内!

そんなJINSの目指す方向性や働き方を形にした東京本社を、一般の方々に公開する特別見学ツアー。5月17日、18日の2日間、髙濱さんとJINS総務課の山﨑が、参加者のみなさんを各フロアへご案内しました。

ツアーの様子を取材した18日午後。開始前にオフィスを訪れると、JINSスタッフが参加者のみなさんをお迎えしていました。

「働くソト」をテーマに設計された1階。外の空気に触れながら、地に足をつけて働ける空間になっている

まちの人たちとのつながりを育む場として、JINSが手がけるコーヒースタンド「ONCA COFFEE 神田店」が併設されている1階エントランス。見学ツアーは、そのスペースでのオリエンテーションからはじまりました。

まずは髙濱さんから、20名ほどの参加者のみなさんに向けて、JINS東京本社の移転プロジェクトや改修に込めた思いを説明いただきました。

その後、進行のバトンは総務の山﨑へ。いよいよ、ツアー本編のスタートです。まずは2階へ向かいます。

山﨑のアテンドで2階へ出発!

2階はワンフロアをまるごとつかった、最大で約200名が利用できるスペースです。その名も「原っぱ」。「遊園地のようにお膳立てされた使い方をするのではなく、原っぱのように使い方を自由に考えてたのしむ場所であってほしい」との願いを込め、建築家の青木淳さんの著書『原っぱと遊園地』から名前をいただきました。

参加者のみなさんの注目を集めていたのが、「種ベンチ」。フロアに埋め込まれた折り畳み式の椅子で、一脚ずつ引き出して使える仕組みです。髙濱さんがJINS東京本社のためにイチから設計し、意匠登録もしました。

「デザインがおもしろい!」「案外、簡単に組み立てられるね」。そんな言葉を交わしながら、種ベンチを体験するみなさん。

「空間の使い方が固定されていないところがいい。海外のある美術館を彷彿とさせるデザインで素敵だと思った」と感想を話してくださる方もいました。

クリエイティビティを刺激する「美術館×オフィス」

続いて3階へ。エレベーターホールから伸びるブリッジを渡ると、その先には商談室フロアがあります。

廊下部分にあたるホワイトスペースは、ギャラリーとして活用。社内外問わず、訪れた人の創造性を充填する場所として、キュレーターの長谷川祐子さんに監修いただきました。

展示は年に2回、長谷川さんのキュレーションのもと、定期的に入れ替えています。第2回展示(2024年9月〜2025年2月)では、写真家・高木こずえさんによる個展『プラネタリウム』を開催しました。(くわしくは、こちら

今回の見学ツアーは、ちょうど展示の入れ替え時期と重なったため、アート作品の展示はなし。けれどそのぶん、アート作品が引き立つように設計された空間を、細部までじっくり味わっていただける時間となりました。

次に見学いただいたのは、5階から8階までのワークフロア。目玉はなんと言っても、フロアの中央に設けられた吹き抜け「Open Art Tube」に取り付けられた内階段です。

吹き抜けの手すりのプリズムシートに映る、虹色の光がオフィスを満たします。角度や時間によって見え方が変わる吹き抜けのアートに、みなさん目が釘付けの様子でした。

5階にはアートピースがもうひとつ。「Fabbrica dell’Aria®(ファブリカ・デラリア)」です。

Fabbrica dell’Aria®(ファブリカ・デラリア)

イタリアのデザイナーと植物学者で構成されるシンクタンク「PNAT」による、植物をバイオフィルターとして活用した空気を浄化するアートです。こちらも、長谷川さんにキュレーションいただきました。

アートのほかにも、社内のコミュニケーションを活性化する仕組みに関心を寄せる方が多くいらっしゃいました。

フリーアドレス制を採用していること。部署ごとにフロアを定期的にローテーションする、通称「部署ガチャ」を運用していること。各フロアの座席使用率を可視化するシステムを導入していること……。

そうした取り組みの一つひとつに注目し、「従業員の荷物はどこに置くの?」「独自のルールはどうやって根付かせていったの?」など、「働く人」の視点に立った質問を投げかけてくださったのが印象的でした。

座り心地にこだわって造作されたソファベンチを試す人も

最後にご案内したのは、9階。フィンランド式サウナとラウンジを設けたフロアです。

フィンランドでは、サウナはリフレッシュやウェルビーイングのためだけでなく、コミュニケーションの場としても使われているそう。

日本サウナ学会代表理事である加藤容崇先生や、フィンランド大使館の方にも相談しながら、これからのオフィスに必要な機能としてサウナを導入。設置したのは、1人用の「ソロサウナ」と、複数人用の「グループサウナ」の2種類です。

サウナスペースに一歩足を踏み入れると、ヒノキの木材をあしらった落ち着いた空間が広がっています。ゆったりくつろげる雰囲気に、「わあ……!」と息を飲む人も。

「営業は火曜日から金曜日までの週4日。男女別の予約制で、従業員は15時頃~20時過ぎまで利用できます。グループサウナには、会話のなかで生まれたアイデアを書き留められるよう、ガラスのホワイトボードも設置しているんですよ」

スタッフの説明に「サウナミーティング、やってみたいな」「仕事終わりにサウナに寄れるなんて最高」などと話す人の姿が見られました。

グループサウナの浴場。メガネ型のサウナストーンがかわいい

水風呂や外気浴のスペースも

あっという間だった1時間の見学ツアー。なかでも心に残ったのは、参加者のみなさんの好奇心あふれる姿です。散会後もその熱は冷めず、髙濱さんやスタッフとの会話を楽しむ方が何人もいらっしゃいました。

東京建築祭が、まちとつながるきっかけに

昨年に引き続き、今年もツアーガイドを引き受けてくださった髙濱さん。すべてのプログラムが終了したあと、こんなふうに振り返ってくださいました。

髙濱さん「ガイドのお話をいただいた当初は、建築関係の方が多いのかなと想像していたんです。けれどフタを開けてみると、近所にお住まいの方や、アートに関心のある方など、建築を『つくる側』ではない方が多くて驚きました。一般の方から直接ご感想やご質問をいただく機会はめったにないので、とても新鮮でしたね。
なかでも印象に残っているのは、オフィス近隣にお住まいの方の言葉です。「今後ギャラリーの展示が一般公開されるときがあれば、また来たいです(※)」と、前のめりに話してくださっていて。
このオフィスは、1階を半屋外のデザインにしたり、コーヒースタンド『ONCA COFFEE』を設けたりと、まちの人たちと自然につながれるように設計しています。東京建築祭がJINSと地域の方々をつなぐきっかけになっているのが、素敵だなと感じました」

※……過去2回の展示では1日限定で一般公開日を設けました。第3回展示も、2025年7月3日(木)に一般公開を予定しています。(くわしくは、こちら

問いを重ね、変わり続けるオフィスであれ

完成から約2年が経つJINS東京本社についての印象を訊くと「正直なところ、2年も経ったと思えないんですよね」と髙濱さんは笑います。

髙濱さん「JINSのみなさんが、とてもていねいに使ってくださっているので、いつ来ても、完成当時の感覚が蘇ります。それに、空間や造作家具がうまく活用されているシーンに触れることも多く、しみじみうれしく思っています。
たとえば『種ベンチ』。ほかにはないデザインだからこそ、実際に使ってもらえるのか心配もありました。けれどいまでは、脚の動きが完成当初よりずっと滑らかになっていて。使い込まれている様子が、そんなところからも伝わってきて感慨深いです。
リノベーションのコンセプト『壊しながら、つくる』には、『オフィスの概念を壊す』という意味も込めました。ビルが取り壊されるその日まで、従来の常識や働き方に問いを立て、変化しつづける場であってほしいと思っています。
その過程で、建物自体に改修が必要になることもあるかもしれません。そんなときはわたしも参加しながら、ここを出ていくときまで、JINSのみなさんと一緒に歩み続けられたらなと思います」

多くの方にお越しいただき、まちとのつながりを感じられる場となった東京建築祭。同時に、髙濱さんの建築への愛情深さ、そして「つくり手」と「使い手」の関係を超えた、特別なパートナーシップをあらためて実感する機会にもなりました。

JINSはこれからも、このオフィスを拠点に、まちの人とのご縁を育みながら、あたらしい挑戦を重ねていきます。

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CREDIT

取材・執筆:森川紗名
写真:小池大介
デザイン:株式会社ASA
編集:春田知子(株式会社ツドイ)