
2025.06.04
メガネだけじゃない話
メガネケース・セリートにあざやかなアート! HERALBONY Art Prize 2024 JINS賞受賞のカミジョウミカさん、28年の歩み
アーティスト カミジョウミカさんのアート作品『夢の中カラフル脳みそ』をモチーフにしたメガネケース・セリートのセットを、2025年6月12日より、国内のJINS全店舗およびJINSオンラインショップ、海外店舗(米国、中国、台湾、フィリピン、香港)で販売します。
コラボレーションのきっかけは、株式会社ヘラルボニーが主催する、障害のある表現者のための国際アートアワード「HERALBONY Art Prize 2024(ヘラルボニー・アート・プライズ)」でした。
「Magnify Life - まだ見ぬ、ひかりを」をビジョンに掲げるJINSは、障害のあるアーティストの才能にひかりをあて、キャリアを後押ししようとする企画趣旨に賛同。ゴールドスポンサーとして、色彩の豊かさと細やかな筆致が美しい本作を「JINS賞」に選出しました。(くわしくは、こちら)

カミジョウミカ / Mika Kamijo『夢の中カラフル脳みそ』
カミジョウミカさんは、世界で5例と言われる先天性骨系統疾患の症状と向き合いながら、独創的な作品を世に発表し続けているアーティストです。
本作が生まれた背景や、カミジョウさんご自身のことをもっと知りたい。そう考えたJINSは、カミジョウさんにインタビューをオファー。長野県にあるカミジョウさんのご自宅兼アトリエに訪問し、お話をうかがいました。
28年、飽きずに毎日描いてきた
─── インタビューをはじめる前にご覧いただきたいものがあって……。完成したメガネケースとセリートをお持ちしました。

JINS社員とカミジョウさん
すごい……! すべての色がキレイに再現されていますね。滲みのニュアンスまでそのままプリントされていて素晴らしいです。


─── 作品のカラフルな模様は、タイトルにもある通り「夢」がモチーフなのでしょうか。
はい。色とりどりの模様が空中に浮遊している夢を見ることが多く、その断片的な残像をキャンバスに写しとって、1週間で仕上げました。
─── B2サイズ(515㎜×728㎜ 一般的なポスターサイズ)の細密画をたった1週間で?
集中して描きあげました。描いているときはいつも過剰に集中してしまって、ごはんを食べることすら忘れちゃうんです。高熱で寝込んだときも、安静にしなきゃと思いつつ、熱が少し下がるとつい描いちゃう。
─── 「描かなきゃ」ではなく、ついつい「描いちゃう」。
そうそう。そんなかんじで、毎日飽きずに30年間近く描いてきました。
19歳で寝たきりに。「描くこと」との出会い
─── 幼いころから絵がお好きだったのでしょうか。
いえ、子どものころはノートの隅や画用紙に落書きをする程度でした。夢中で絵を描きはじめたのは19歳のときです。
自分は先天性の疾患を持って生まれて、中学生のときに車イス生活になり、19歳で寝たきりになりました。入院先のテレビのない静かな病室で、できることはないか、どうやったら暇をつぶせるか、ずっと考えていました。
あるとき、病室で天井の模様を眺めていると、その模様がだんだんと姿を変えて、いろんな形に見えてきたんです。ふと、『いま見えているものを絵に描いたらおもしろいかも』と思い立ちました。
これまでに見てきた変わった夢や、ずっと大好きだった空想も、すべて絵に描いてカタチに残そう。そう思って、スケッチブックや水性ペンを両親に買ってきてもらいました。それがすべてのはじまりです。
─── 困難な状況のなかで、生涯夢中になれることを見つけたんですね。
はい。医療従事者のみなさんの似顔絵を、感謝の気持ちを込めて描いたところ、一人の看護師さんによろこんでもらえて。その反応が励みになって、毎日10枚以上描き続けました。
入院の後半には、当時の看護師長さんの提案で、1日限りの展覧会をナースステーションで開いてもらいました。絵を見てくれた患者さんやスタッフさんたちの笑顔がずっと忘れられません。そのときの経験があるから、いまも絵を描いていますね。

病院で描いたディフォルメタッチの似顔絵
「驚かせたい」から、描き続ける
─── 退院後すぐに、アーティストとして活動をはじめられたのでしょうか。
いえいえ、全然そんなことはなくて。退院後も絵を描いていたのですが、人に見てもらう機会はありませんでした。本格的に制作に打ち込むようになったのは、退院から2年後の1998年。長野オリンピック・パラリンピックにあわせて開催された障害のある人を対象とした公募展での受賞がきっかけです。
受賞作品をたくさんの人に見てもらえたことが、ほんとうにうれしくて。その経験が希望になって、コンテスト熱に火がつきました。
当時は障害のある人に向けたコンテストが少なかったうえに、インターネットも普及しはじめたばかり。それでもなんとか雑誌やネットで情報をかき集めて、応募し続けました。

「98アートパラリンピック長野」街かど賞 受賞作品『サンデー』
─── 絵を人に見てもらうための一番の手段が、コンテストだったんですね。
はい。ほんとうは雑誌社などを直接訪問して作品を売り込みたかったんですけど、身体的な制約上むずかしくて。だから、やっぱりコンテストかなと。一人でも多くの人に絵を見てもらうためには、できることを探して動くしかない。そう思って過ごしていましたね。
─── カミジョウさんのプロフィールを拝見すると、コンテストで受賞した作品は100点以上。近年は数多くの個展やグループ展を開催されていて、めざましい活躍ぶりです。
ありがたいことに、展覧会を年に複数回開かせてもらうこともあります。どの展覧会にも新作を展示したいので、毎年80点から100点ほど作品を描いていますね。
─── 100点は驚きです……! そのバイタリティはどこから湧いてくるのでしょう。
一番は、見る人をたのしませたい、驚かせたいという気持ちだと思います。作品に感心してくれるお客さんの姿を見るとうれしくなって、「だったら、次はもっと違うアプローチの作品をつくろう」と意欲が湧いてくるんです。
展覧会の準備と並行して、コンテストへの出品も続けています。だいたい年間に30点近く出品していますね。コンテストを続ける理由は、絵に旅をしてもらいたいから。自分が自由に旅行できないぶん、絵だけでもいろんな場所に行ってもらいたくて送り出しています。

ネガティブな思いも創作の糧に
─── 作業台にあるキャンバスは、現在制作中の作品でしょうか。
そうです。「細胞」をこまかーく描きはじめちゃいました。このあと、カラフルに色を塗って仕上げるつもりです。

─── かわいい模様! カミジョウさんの作品はどれもテーマがおもしろく、色彩豊かで、見ていて心がはずみます。人体、宇宙人、縄文時代、微生物、細胞……、これまでのバラエティ豊かなテーマは、なにから着想を得てきたのでしょうか。
たとえば「人体」は、自分の病気に関する疑問が原点にあります。2021年に病名が明らかになるまでの40年以上、なんの病気かわからないまま生きてきました。自分の体に対する「なんだろう」をカタチにしたのが「人体」シリーズです。
「宇宙人」もそうですね。見た目が人と違うので、周囲から見て自分は「異物」なのかな。まるで「宇宙人」みたいだなと思ったときがあって。そういうネガティブな思いを逆手にとって作品にしちゃったんです。
─── 逆境やつらい思いも好奇心の対象にして創作の糧にする。そのポジティブな考えが作風にあらわれて、見る人に伝わっているように思います。
そうだとうれしいです。できるだけたのしく、明るい気持ちになっていただけたらと思って日々作品を描いているので。やっぱり、展覧会に来てくださったお客さんには笑顔になってもらいたいです。
「できること」は取りこぼしたくない
─── ふだん、どんな画材で制作されているのでしょうか。
よくつかうのは、油性ペン、アクリルガッシュ、オイルパステル。あとは手で描いた絵をスキャンして、フォトショップで加工することもあります。じつは、ここにあるものも画材なんですよ。

─── これは……ペットボトルのお茶のラベル?
そうです。ほかにはカプセル薬の包装シート、アルミホイル、ノートの切れ端……。こういう身近にある素材で作品をつくることもあります。見る人にたのしんでもらうために、どんな工夫ができるのか。それをずっと考えているので、ボーっとする時間はトイレのなかだけかもしれません(笑)。

カプセル薬の包装シートをつかった作品。カミジョウさんの作品保管庫にて
─── 30年近くものあいだ、描いて、考えて、また描いて。疲れてしまうことはないのでしょうか。
絵で苦しんだ経験はあまりなくて。もともとの性格がちょっと好奇心旺盛すぎるのかもしれません。とくに絵に関することは、取りこぼしたくない。自分にできることは、全部やりたいんです。
─── どんなときも「できること」にひかりを当てて、貪欲に追求する。その前向きでパワフルな姿勢が、カミジョウさんの道をひらいてきたのだと感じました。
ただただ、好き勝手にやっているだけなんですけどね(笑)。自分にとって「絵」は衣食住より大切なこと。体調が許すかぎり、これからも描き続けたいです。

メガネケースとセリートが国内外のJINS店舗で販売されるのを受け、「作品が海を渡るのははじめて。世界の人々に絵を見てもらえるのが、なによりうれしいです」と話してくださったカミジョウさん。
「生きることは描くこと、描くことは生きること。」を信念に、難病を抱えながらも、自らの人生を豊かにしようと前を向くカミジョウさんの生き方は、「見ることを通じて人々の人生を豊かにしたい」と願う、わたしたちJINSのビジョン「Magnify Life - まだ見ぬ、ひかりを」に通底します。
そんな彼女の作品を世界に発信できる。その喜びを改めて実感するひとときとなりました。
カミジョウさんの作品をデザインしたメガネケース・セリートは、6月12日より、全国のJINS店舗およびJINSオンラインショップで購入可能です。ぜひお手に取ってみてください。詳しくはこちら。

また、メガネケースとセリートの販売を記念して、JINS東京本社のギャラリーにて、カミジョウさんの展覧会を開催します。ギャラリーは通常、従業員・関係者のみに開かれた場所ですが、1日限定で一般公開日を設ける予定です。貴重なこの機会に、カミジョウさんの作品をぜひご鑑賞ください。
■ギャラリー 一般公開日概要
タイトル:色彩遊戯―ミクロとマクロの間で―
日時:2025年7月3日(木)11:00~14:00(最終受付:13:30)
会場:JINS東京本社 3Fギャラリースペース
住所:東京都千代田区神田錦町三丁目1番地 安田シーケンスタワー
入館方法:2025年6月19日(木)9:00〜7月3日(木)13:30の期間、JINS東京本社1階のコーヒースタンド「ONCA COFFEE神田店」で商品を購入された方へ特別鑑賞チケットを配付。当日、チケットと引き換えに入場いただけます。
※「ONCA COFFEE神田店」の営業は平日の9:00~17:00(予告なく変更になる場合がございます)。
カミジョウさん コメント:みなさんにたのしんでいただけるように、さまざまなタイプの作品を展示する予定です。『どんな素材をつかっているのかな』『こういう表現もおもしろいね』と、作品が会話のタネになれたらうれしいです。じっくりご覧になってください。
CREDIT
取材・執筆:森川紗名
写真:小池大介
デザイン:株式会社ASA
編集:春田知子(株式会社ツドイ)