
2025.09.10
ジンズのたねまき
まちの可能性をどう引き出す?「地域共生事業部」現場のいま
JINSのビジョン「Magnify Life – まだ見ぬ、ひかりを」のもと、「地域の可能性を拡大する」ことを目標に掲げ、まちの活性化に取り組む「地域共生事業部」。JINS発祥の地・群馬県前橋市にある複合施設「JINS PARK」を拠点に、地域にあらたな賑わいを生み出しています。
これまでの特集では、事業部責任者 白石へのインタビューや、地域の方々の声を通して、その歩みを紹介してきました。
第3弾となる今回は、現場で実務を担うメンバーたちにインタビュー。前編では、地域共生事業グループ、飲食事業グループ、イベント運営グループの取り組みと、その背景にある思いに迫ります。聞き手は、ライター・森川紗名さんです。
地域に喜んでもらえるか。それがすべての判断基準
───JINS PARKでイベントを実施された方々のお話から、みなさんの思いが地域にしっかり届いているのを感じました。とくに、まちの人との信頼関係の深さには驚かされます。今日は、地域と良好な関係を築く秘訣、そして取り組みの具体例をぜひ聞かせてください!
石井:信頼を得る秘訣……と言えるかわかりませんが、仕事をするうえでの判断基準はブレないように心がけています。「地域全体にとって、なにが喜ばれるか」。この問いに立ち返りながら、取り組んでいます。

地域共生事業グループ 石井建司
─── 石井さんが所属する地域共生事業グループでは、ここJINS PARKでJINSが主催するイベント運営に加えて、施設を地域の方々に開放して、地域の方が企画するイベントの開催もサポートされています。たとえば、どんなときにその基準を意識しますか?
石井:日々いろんなご相談をいただくのですが、その際は「地域に喜ばれるかどうか」を判断の軸にしていますね。たとえJINS PARKの集客など、短期的にはJINSの利益へ直結しない内容でも、その基準に沿っていれば、できるだけ背中を押すようにしています。
白石:JINS PARKの玄関に「子ども服の古着販売コーナー」を設置しているのも、地域の人からの相談がきっかけだったよね。

地域共生事業部 シニアディレクター 白石将
石井:はい。この近隣を拠点に、服や本のリサイクルを通じて女性の自立を支援しているNPO法人から相談を受けて。JINS PARKで気持ちよく受け入れられそうな取り組みを一緒に考えました。
─── アイデアをそのまま受け取るのではなく、「一緒に考える」のですね。
石井:そうですね。企画のほんとうの目的や、その背景などをじっくり聞かせてもらったうえで、「だったら、こんなことも考えられますよ」と、提案するようにしています。
白石:検討もせず「NO」と言わない。話を聞く。一緒に考える。その姿勢が一貫しているから、たくさんの相談が寄せられるんだと思います。最近では、口コミで知って、イベントの自主企画を持ってきてくれる人も増えたよね。
石井:すごく増えましたね! 新規の方だけでなく、リピーターも多いです。「はじめてのイベントで不安だけど、JINS PARKなら一緒に考えてくれる」「JINSに相談したら、よりおもしろいイベントになる」。大変ありがたいことに、その認識が地域にひろがっているようで、結果的にJINS PARKの賑わいがどんどん増してきました。直近1年間は約3日に1回はイベントが開催されるほどに盛り上がってきています。
毎日通いたくなるベーカリーカフェを目指して
髙橋:JINS PARK全体にいい循環が生まれているのは、飲食事業グループの立場からも実感しています。実際、JINSが運営するベーカリーカフェ「エブリパン」の売上も伸びていて、数字にもその変化があらわれています。

飲食事業グループ 髙橋春幸
白石:髙橋は昨年JINSに加わり、飲食事業の計画策定、パンや焼き菓子の商品開発を担当しています。これまで、パン製造業で長く経験を積んできた、パンのプロなんですよ。
─── 「エブリパン」は、地域とのコミュニケーションの場づくりも目的にしていると聞きました。一般的なベーカリーとは違う点も多いと思いますが、髙橋さんが意識していることはありますか?
髙橋:おっしゃるとおり、自分たちに求められているのは、たんに「イートインの席がいっぱいになる」とか、「お店に行列ができる」といった、わかりやすい成果ではないんですよね。地域共生事業部では「地域に喜んでもらえるか」がすべての軸。なので、飲食事業を通じて「来るたびにたのしい」「あたらしい発見がある」。そう思ってもらえる場所を目指しています。
─── 具体的には、どんな取り組みを?
髙橋:たとえば、毎月10品ほど新作パンを出すのに加えて、2~3カ月ごとに新作ドリンクも用意して、来店のたびにワクワクしてもらえるよう工夫しています。それから、家族連れのお客さまがたのしめるよう、大人も子どもも笑顔になれる商品を考えたり。お子さんが「これ欲しい!」と言ったときに、親御さんが迷いなく手に取れるよう価格の幅も広げています。
白石:その思いはお客さまにちゃんと届いていて、たのしそうに商品を選んでいる姿をよく見かけます。売場での滞在時間も、あきらかに長くなっているんですよ。
髙橋:「子どもと安心して来れる」との声を、親御さんからいただいたこともあります。「子どもが自由に選べて、親も気軽に買ってあげられる。その価格やサイズ感がいい。なにより、パンがおいしい」と。一つひとつの工夫が、売上や地域からの信頼につながっているのかなと、うれしく思っています。
石井:今年の春に、地域共生事業グループと飲食事業グループが一緒に開催した「パンコンテスト(※)」も、JINS PARKならではの取り組みでしたよね。お客さまにたのしんでいただけたし、いつも以上に深いコミュニケーションが生まれるきっかけにもなりました。
※パンコンテスト……地域の皆さんからアイデアを募集し、最優秀賞作品を商品化するパンのコンテスト。JINS PARK創設4周年を記念して開催した(くわしくは、こちら)
髙橋:エブリパンの人気No1である「塩パン」部門で、最優秀賞に輝いた「焼きまんじゅう味」を、7月23日から販売しています。焼きまんじゅうは、群馬の人なら誰もが知るソウルフード。受賞された方や、お客さまの期待を超える味にしたくて、タレの風味や食感にこだわりました。とても評判がいいんですよ。

カリッじゅわ塩パン~焼きまんじゅう~
アートでまちを元気に。熱意でひらく地域の可能性
─── 秋本さんは、アートを通じてまちを盛り上げる活動をされています。JINSは、店舗の空間づくりにアーティストを起用したり、東京本社にギャラリースペースを設けたりと、アートを大切にしている印象があって。秋本さんの活動に「JINSらしさ」を感じていました。具体的にどんな取り組みをされているのでしょうか?
秋本:「アートでまちを元気にする」という考えは、JINS PARKの立ち上げ当初から、代表取締役CEO田中が思い描いていた構想のひとつでした。その思いをかたちにするため、地域の未来を担う子どもたちに向けた「アートワークショップ」を年に4回実施していました。

イベント運営グループ 秋本真由美
白石:子どもたちは、目を輝かせてたのしんでくれているよね。
秋本:ほんとうにそうなんです。保護者の方々からも「機会をもっと増やしてほしい」との声があって。昨年からは、「ミルイクアートまつり」と題した、大規模なイベントを行っています。
白石:秋本は、仕事の熱量が高い人。持ち前のパッションで、ワークショップに協力してくれるアーティストたちとも、しっかり信頼関係を築いています。
秋本:アーティストのみなさんって、それぞれすごいパワーを持っているんですよ。いつも刺激をいただいています。最近は、ワークショップで制作いただいた作品の一部を、JINS PARKに常設展示として残す取り組みもはじめました。たとえば、屋上テラスの片隅にある作品『窓辺の花』は、アーティストの尾花賢一さんが「ミルイクアートまつりvol.2」に協力してくださったときに制作されたものです。

アーティスト 尾花賢一さんによる作品『窓辺の花』
─── わあ、すてき……! こうして残していくと、さまざまなアーティストたちと協業し、地域の人たちと交流してきたJINS PARKの歩みを感じられますね。
秋本:この取り組みは石井が提案してくれて。「それ、いいね!」とすぐに取り入れました。
白石:チームのメンバーが施設をうまく活用しながら、コミュニケーションの場を育んでくれているおかげで、「みんなの公園」というJINS PARKのコンセプト通りの場所になっています。JINS PARKを設計してくださった建築家・永山祐子さんも、ただの複合施設ではなく、地域コミュニティのハブとして建物が活かされている点に注目して、ご自身の作品としてたびたび紹介してくださるんですよ。

「ミルイクアートまつりvol.1」のワンシーン。JINS PARK 屋上テラスにて(写真:SHINYA KIGURE)
秋本: ほかにも、群馬を拠点に活動する一般社団法人メノキと協業して、「ミルミルつながるプロジェクト」という活動も行っています。その一環で、メノキの代表を務める、全盲の彫刻家・三輪途道(みわ みちよ)さんとともに、視覚に障害がある人とない人が一緒に遊べる「みんなとつながる上毛かるた」を制作しました。
白石:秋本から三輪さんの話をはじめて聞いたとき、「見えない人の『見る』に向き合うことは、『みる』を事業の中心に据えるJINSにとって、大きな意味がある」と感じました。その思いは秋本も同じで、彼女が社長に直談判した結果、この協業が実現したんです。いまでは秋本は、プロジェクトの一員として活動しています。三輪さんたちからの信頼もあついんですよ。

「みんなとつながる上毛かるた」の読み札と絵札
秋本:最近では、このかるたを使った特別授業が、群馬県内の小学校で開かれることになりました。それに、県外からお声がけいただく機会も増えていて。これまでに東京大学や東京都美術館で、ワークショップを実施しました。この先も、山形や佐賀で講演会やワークショップの予定があるんです。当初の想像を超えて活動が広がりつつあり感慨深いです。
─── 秋本さんの働きかけが、地域のアーティストの可能性をひらくきかっけをつくったんですね。
秋本:少しでも力になれていたらうれしいですね。今後は、そうした県外での経験を、群馬での活動にしっかり還元していけたらと思っています。
* * * *
「地域の可能性を拡大する」。その目標に向かって、まっすぐに取り組む地域共生事業部のメンバーたち。
「どうして、メンバー全員が同じ視座を持って仕事ができるのですか?」という問いに、「雑談が多いからかな。ざっくばらんに話しているうちに、自然と価値観を共有できるのかも」と話す白石の姿が印象的でした。
つづく後編では、地域共生事業部の良好なチームワークの秘訣に迫ります!
CREDIT
取材・執筆:森川紗名
写真:小池大介
デザイン:株式会社ASA
編集:春田知子(株式会社ツドイ)