2024.10.30
メガネだけじゃない話
高木こずえ写真展『プラネタリウム』開始! JINS東京本社のギャラリーに新たなアートを導入しました。
写真家・高木こずえさんの作品展がスタート
JINSは現在、「Second Genesis(第二創業)」をかかげ、JINSブランドの刷新に取り組んでいます。その取り組みの一環として、2023年5月に東京本社を移転しました。
一棟まるごと借り上げた地上9階建てのビルを、建築家・髙濱史子さんのもとで「壊しながら、つくる」「美術館×オフィス」をコンセプトにフルリノベーション。国際的なキュレーターであり、金沢21世紀美術館館長でもある長谷川祐子さんに監修いただき、3階にある商談フロアの廊下部分をギャラリースペースとして活用しています。
長谷川さんによるキュレーションのもと、ギャラリーの第1回展として、立石従寛さん、松田将英さん、保良雄さんによる映像インスタレーション『Gravitation』を展示。つづく第2回展では、写真家・高木こずえさんの個展『プラネタリウム』を開催。2024年9月から、写真、絵画、版画など多様な作品を20点展示しています。
そして2024年10月4日。本展の開始を記念して、JINS東京本社でJINS社員を対象にアートからクリエイティビティを学ぶ「JINS Art Session vol.2」が開催されました。長谷川さんと高木さんから、アート作品の選定理由や解説をお話いただいた本イベントの様子をお伝えします。
「変化」とは写真そのもの
JINS社員やご招待した近隣企業の方々が一同に集まり、会場はほぼ満席です。そんななか、リラックスした様子で壇上にあがった長谷川さんと高木さん。高木さんからは、作品が生まれた背景やエピソードが語られました。
写真家・高木こずえさん photo:芝山健太
たとえば、デジタル写真とその写真をもとにした絵画のシリーズ『琵琶島』(2012‐2017)。
この作品はもともと約300枚のデジタル写真を合成した、縦12メートル横4メートルにもおよぶ大型アートだったのだそう。
作品『琵琶島』シリーズ photo:芝山健太
「作品をつくっていく過程で、撮影した理由や意味を毎回考える」という高木さん。本作が出来上がったとき、「この作品がなにかわからない」と感じたといいます。
高木さん「答えがわかったときに制作を終えるのですが、本作はじっくり考えを巡らせてもわかりませんでした。そこで、作品を構成している写真を細かく見ていくことにしたんです」
作品に使用した約300枚のスナップ写真を1枚1枚見返してみる。いくつかのスナップ写真を組み合わせて再度撮影してみる。写真をもとに油彩画を描いてみる……。模索の結果、「わからないまま終わっちゃいました」と高木さんは笑います。そしてこう続けました。
高木さん「写真を絵にしていくうちに、わかったことがひとつだけあります。それは、『わたしは“変化”におもしろさを感じているのだ』ということです。
考えてみれば、『変化』とは写真そのものなのです。写真が絵に変わるのと同じように、ある光景を写真に撮ると、それがネガになったり、プリントになったり、データになったりする。
この『変わる』ことこそ、写真の一番のおもしろさなのではと思うようになりました」
(展示左)をもとに油絵で描いた絵画(展示左から2つ目)は『琵琶島』シリーズの作品。富山県の海辺で撮影した写真(展示右2点)に異なるレイヤーを重ねた新作(タイトル未定) photo:Keizo Kioku
本展では高木さんの新作(タイトル未定)も展示。富山県滑川市で撮影した写真に、異なる色のレイヤーを重ねて仕上げた作品です。聞けば、もともとはモノクロの作品だったそうで……。
高木さん「カラーにする予定のない写真だったのですが、長谷川さんから『1枚だけ金色にしてほしい』と提案を受けました。
その日の帰り道、要望の意図を理解できず混乱したまま道を歩いていたら、頭のなかで何十枚ものモノクロ写真がどんどんカラーに切り替わっていったんです。長谷川さんに魔法をかけられましたね」
長谷川さんは、ほほえみながらこう返します。
長谷川さん「はたらく人が行き来するギャラリーですので、適切な刺激がありながら心地よさも感じられる展示になるよう、カラーを提案しました。アーティストには優れた潜在能力があるので、ちょっと謎めいたヒントを投げかけるように心がけています。キュレーターはアーティストを信じてマジックをかけるのが仕事なんですよ」
photo:芝山健太
アーティストとキュレーターのおふたりが二人三脚でつくりあげた本展。完成までのプロセスの一端を垣間見た一幕でした。
「写真」のあたらしい解釈を提示する作品『プラネタリウム』
長谷川さんは高木さんの作品を選定した理由について、次のように話されました。
国際的なキュレーターであり、金沢21世紀美術館館長でもある長谷川祐子さん photo:芝山健太
長谷川さん「高木さんは、自分が対面した光景を記憶のなかに留めるために、写真、絵画、版画など、いろんなかたちに光を変化させます。自分が『これだ』と思えるところに到達するまで、さまざまな表現技法を縦横無尽に開拓していくのです。そうして生まれた作品は、彼女にとってはすべて『写真』といえます。
『写真』の概念が拡張された彼女の作品を通して、『みる』とはなにかを改めて考えていただけたらと思います」
くわえて、この展示プログラムのために制作された作品『プラネタリウム』はとくにイノベーティブな作品だと長谷川さんは評します。
作品『プラネタリウム』。ポラロイド写真で撮影したプラネタリウムの建物(左の写真)をもとに、アクリル絵の具と写真の古典技法「サイアノタイプ」でつくられた絵画(右の写真) photo:Keizo Kioku
プラネタリウムの建物を撮影したポラロイド写真をもとに、写真の古典技法「サイアノタイプ」とアクリル絵具でつくられた本作品。タイトルの由来について、高木さんはこう話してくださいました。
高木さん「プラネタリウムで上映される無数の星のなかには、水星や金星のように光が数分で地球に届く星もあれば、何億光年も離れた遠い場所にある星もあります。途方もない時間差で生まれた光が、目の前に展開されている。その様子が写真に似ていると思いました。
今回の展覧会でも、いろんな場所、いろんな時間にあった光が、写真に変化することによって同じ会場に届き、並べられています。プラネタリウムと展覧会に共通する特性に注目して、このタイトルを長谷川さんに提案しました」
タイトルはもちろんのこと、作品自体をたいへん気に入っていると話す長谷川さん。「JINS Art Session」の終わりに、会場の人々に向かって次のように語りかけました。
長谷川さん「これから写真をご覧になるときは『写真となったこの光は、どの場所、いつの時間から届いたのだろう』とぜひ考えてみてください。高木さんの視点を借りて、写真にじっくりと思いを巡らすこと。それはきっと素敵な旅になると思います」
photo:Keizo Kioku
アートの一般公開を1日限定で実施
写真のあたらしい解釈を提示してくれる第2回展『プラネタリウム』。普段はJINS社員や関係者のみが入れるギャラリースペースに展示されている20点のアートが、10月18日に一般公開されました。
当日は数十名もの方々にご来場いただきました。1階のONCA COFFEE神田店でコーヒーを購入された後に立ち寄った方、Webのニュース記事や高木さんのInstagramでの告知をみて来場いただいた方、さらには遠方からお越しになった方など、来場の動機やきっかけは多種多様です。
展示作品をはじめ、「JINS Art Session vol.2」で長谷川さんと高木さんが作品を解説された際の記録映像も、みなさん熱心に鑑賞されていました。
「アートから得た刺激を、JINS社員一人ひとりの成長の糧にしてほしい」。JINSホールディングス CEO田中仁がそう願って設置されたギャラリースペース。その空間に並ぶ数々のアートは、今日も来る人の目をたのしませ、わたしたちに感性を磨くきっかけを与えてくれています。
CREDIT
取材・執筆:森川紗名
写真:芝山健太、Keizo Kioku
デザイン:株式会社ASA
編集:春田知子(株式会社ツドイ)