2024.12.18
メガネだけじゃない話
アイウエアブランド「JINS」、国内500店舗達成! “おもわず立ち寄りたくなるメガネ店”をつくってきた店舗開発部の裏話
2001年に開店した国内1号店「JINS福岡天神ビブレ店」を皮切りに、全国すべての都道府県に出店を広げてきたJINS。2024年12月13日には「JINS カインズ白河モール店」をオープンし、国内500店舗を達成しました!
この節目に、店舗の出店や設計に携わる「店舗開発部」の責任者 廣田にインタビュー。JINSのお店づくりを支える思想、工夫について訊きました。
出店も設計も、大切にしている基準は「Magnify Life」
「店舗開発部がお店をつくるうえで『大切にしていること』をぜんぶ教えてください!」
インタビュー冒頭の唐突な問いかけに、廣田は迷いのない口調でこう答えました。
廣田「JINSのビジョン『Magnify Life まだ見ぬ、ひかりを』に沿ったお店をつくること。これに尽きますね」
出店場所を選ぶとき、ビジョンを軸にした観点が欠かせないと廣田は言います。
店舗開発部 部長 廣田 photo:小池大介
廣田「JINSの出店先は多岐にわたります。
メインはたくさんの人が集まるショッピングセンターやロードサイドですが、ビジョンに照らして適切だと判断できれば、メガネ店の出店先として意外な場所、たとえば書店のなかに店舗を出すこともあります。
逆に客数が見込める好立地だとしても、面積が小さいなどJINSならではのサービスを提供できないと判断した場合は出店しません」
店舗設計においても、ビジョンを見据えつつ、JINSらしさをどう表現するかを考えるのだそう。
廣田「JINSらしさの大切なポイントのひとつは、わかりやすさにあると思うんです。複雑さがなく、誰に対しても開かれている。そういうJINSのよさを表現するため、明快、シンプル、開放的であることを意識して店舗設計しています」
国内1号店「JINS福岡天神ビブレ店」での成功体験が、JINSらしさの原点
JINSらしさをかたちづくる「明快」と「シンプル」。その原点は、国内1号店『JINS福岡天神ビブレ店』がオープンした2001年にさかのぼります。
当時、メガネは一式で平均約30,000円と高価格。さらにメガネを選んでから手元に届くのに数日~数週間かかるのが当たり前の時代でした。
廣田「JINSが登場する以前はレンズ価格が不明瞭なお店が多くて。フレームを選んでレジに持っていくと『じゃあ、レンズはどうしましょうか』とはじめてレンズ価格の話になる。まるで、黒板に『時価』と書かれているお寿司屋さんのような(笑)。メガネ店に入るのを躊躇する人もいたと思います」
そんななか、JINS福岡天神ビブレ店が展開したサービス「メガネ一式5,000円と8,000円のツープライス制(※当時)」と「即日受け取り」は、驚きをもって人々に受け入れられ、大ヒット。
わかりやすく、シンプルな価格設定とサービスがお客さまの心を掴みました。
廣田「その特徴を視覚的に表現するため、商品を選びやすく、誰もが立ち寄りやすい開放的な店舗デザインを目指すようになったんです」
ジンズガーデンスクエアで生まれた、JINSならではの顧客体験
廣田「店舗設計で心がけている点は他にもあって。『このお店にまた来たい』と思ってもらえる空間をつくること。これも店舗開発部の大事なミッションです。
低価格のメガネを売りにする競合が増え、日本中どこでも便利にメガネが買える環境のなかで、わたしたちのお店を選んでもらうには、JINSにしかない特別な体験が必要だと思っています。
そう考えるようになったのは、『ジンズガーデンスクエア』での経験が大きいかもしれません」
photo:小池大介
「ジンズガーデンスクエア」とは、2002年に群馬県前橋市にオープンした店舗のこと。メガネ店、雑貨店、カフェがセットになった新業態で、おいしいパスタと低価格のメガネが評判を呼び、栃木県佐野市、埼玉県上尾市にも店舗を拡大しました。
入社してすぐ、ジンズガーデンスクエア上尾店で働いていた廣田は当時をこう振り返ります。
廣田「カフェでお茶をしていたお客さまが、ふらっとメガネ売り場に立ち寄ってくださるシーンを何度となく見てきました。スタッフとおしゃべりして、気軽にメガネを試着して、『どれもすてきね』と言いながらお客さまは帰られるんです。
週末になるとお友達やご家族を連れて再び来店してくださる方が何人もいました。購入を決めたあと『ちょっとお茶でも』とまたカフェを利用する人もいましたね。メガネを購入する前も、その後もたのしめるのが『JINSらしい体験』なのだと肌で感じました。
近年、大型書店のなかに出店したり、カフェチェーン店と連携してお店を出したりと、あたらしい取り組みを進めてきましたが、それもすべてお客さまに豊かな時間をたのしんでもらうための施策です。ジンズガーデンスクエアでの原体験がいまのお店づくりに活きていますね」
あたらしい驚きのために。地域性を取り入れたお店づくり
JINSらしい定番の店舗デザインを確立し、出店場所に工夫をこらしながら全国に店舗を広げていったJINS。その過程は試行錯誤の連続だったようで……。
廣田「47都道府県の主要都市のほか、第2、第3、第4都市にまで店舗を広げていくと、おなじデザインのお店ばかりではお客さまの驚きがどうしても薄れてしまうんですよね。
あたらしい驚きを提供するにはどうしたらいいか。そんな課題に直面していたころ、2021年9月に社内に地域共生事業部が発足して、地域とのつながりを大事に育てようとする気運が強まりました。
その流れもあいまって、定番デザインの店舗を増やしながらも、同時に地域に根差したオリジナリティある店舗を出店するようになったんです」
ついつい寄りたくなる。わざわざ来たくなる。複合施設「JINS PARK前橋」
地域に根差した店舗の具体例として廣田がまっさきに挙げたのが、2021年4月にオープンした群馬県前橋市にある複合施設「JINS PARK前橋」です。コンセプトは公園のように開かれた「みんなの場所」。設計を建築家の永山祐子さんに依頼し、地域をつなぐハブのような存在になれたらとの思いを込めてつくりました。
廣田「JINS PARK前橋は、JINSが運営するベーカリーカフェ「エブリパン」が併設されていたり、芝生が広がる屋外ひろばがあったりと、メガネの購入予定のない方や子どもにもたのしんでもらえる施設です。
近所の人がついつい立ち寄りたくなる。遠方の人もわざわざ来たくなる。JINSらしさを凝縮した居心地のよい場所になっていると思います」
「ただいま、ありがとう」の気持ちを込めて。「JINSミーナ天神店」
廣田が2つ目の例として挙げたのは「JINSミーナ天神店」。
アイウエアブランド「JINS」と、JINSが手掛けるコーヒーショップ「ONCA COFFEE」が一体となった店舗です。建築設計事務所「ツバメアーキテクツ」のみなさんに設計を担当いただきました。
photo: Kenta Hasegawa
photo: Kenta Hasegawa
廣田「天神は国内1号店が誕生したJINSはじまりの地。出店先だった『ビブレ天神』は閉店したものの、いまも変わらず大切な場所です。
あの頃を支えてくださった方々へ『ただいま、おかげさまでこんなに大きくなりました』と感謝の気持ちを込めて2023年に出店しました。高品質なコーヒーとともに豊かな時間を過ごしてもらいたくて、ゆったりとした空間に仕上げています」
店内に配置したソファや本棚には、福岡県の工芸品「小石原焼」を使用。地域にゆかりある素材を活用するのは、地域とつながるきっかけをつくるためだと廣田は言います。
廣田「その土地ならではの意匠は、コミュニケーションのタネになるんです。店舗スタッフから、お客さまやディベロッパーの方へ『じつは地元の陶器を使っているんですよ』と紹介したり、お客さまから 『すてきなデザインだね』と声をかけていただいたり。
そんな会話のひとつひとつが、地域に溶け込むきっかけになるんじゃないかと思っています」
遊び心にあふれた日本最大の店舗「JINSイオンモール豊川店
「これぞJINS。冒険心をくすぐる、驚きのあるお店です」
廣田がそう語るのは、「JINSイオンモール豊川店」。
photo:阿野太一
126.97坪にわたる敷地面積はバスケットボールコート一面分に匹敵し、JINSの店舗として日本最大を誇ります。
photo:小池大介
廣田「『大きな場所でJINSを表現させてください。思い切ったことをやってみせますから』とディベロッパーの方へお話して了承をいただきました。プロジェクトを進める過程では『この広さをどういかそうか』と試行錯誤したことも多々ありましたが、チャレンジしてみてよかったですね」
設計は建築家の平田晃久さんに依頼。『雲の中に浮かぶメガネと出会う』をコンセプトに、唯一無二の世界観を持つ店舗が完成しました。
店舗のいたるところに、雲にみたてた半透明なメッシュ素材の什器を配置。その一部には、子どもたちがかくれんぼしたり、本を読んだりできるスペースを設けました。
さらに、絵本、アートブックなど約1,200冊もの書籍を陳列。書籍を置く理由を、廣田は次のように話します。
廣田「せっかくJINSに来ていただいたのだから、人生がすこし豊かになる『みる』を体験していただきたくて。いつもなら手に取らない本と出会ったり、それまで知らなかった何かを発見したり。そんなすてきな瞬間が生まれることを願ってライブラリーを設置しました」
地元の人に愛されるお店になるように。地域と一緒に成長していけるお店になるように。そんな願いを込めて、店舗開発部はお店の隅々にまで工夫をこらしています。
ディベロッパーからも評価いただいた、JINSの店づくり
あたらしい驚きを提供できる空間を求めて、絶えず変化を重ねてきたJINSの店舗。同時に、商品や接客サービスも進化し続けてきました。その結果、JINSのある特長がはぐくまれたといいます。
廣田「JINSのお店って、性別、年代問わずいろんな属性のお客さまが来てくださるんです。それはつまり、商品、接客サービス、店舗デザインを目にした多くの人が『わたしのブランドかもしれない』と直感的に感じ取ってくれているということ。
魅力的な商品、ていねいなサービス、心地よい空間。それらすべてが奏功し、幅広いお客さまにJINSの魅力がきちんと届いていてるのはうれしい限りです」
客層の広さ、客数の多さは取引先からも評価され、2024年の春、繊研新聞主催「第26回ディベロッパーが選んだテナント大賞」で「ベストセラー賞」を受賞。受賞テナントとして著名なアパレルブランドが名を連ねるなか、メガネブランドの受賞はJINSのみでした。
廣田「ボーダーレスともいえる『間口の広さ』はJINSの強みです。これからもすべての人にとって心地よい店舗をつくっていきたいですね」
photo:小池大介
500店舗は通過点。「JINSらしい体験」を広く届けていくために
「すべての人にとって心地よい店舗を」。その対象は日本国内に限らないと廣田は言います。
廣田「これからは、世界中の人にとって買いやすい空間づくりにチャレンジしたいと思っています。
現在JINSは海外に250以上の店舗(2024年11月末時点)を展開していますが、国によって買い物のスタイルはガラッと変わります。たとえば、店舗スタッフとのコミュニケーションを重視する国もあれば、自分のペースで自由に買い物をしたい国もある。
そういった文化の違いをふまえて、どんな人にとっても気持ちのよいお店をつくっていきたいですね」
photo:小池大介
インタビューの最後、今後の国内の出店戦略を訊くとこんな答えが返ってきました。
廣田「500店舗を達成できたのは、ひとえにお客さま、ディベロッパーの方々、店舗スタッフたち、本社のスタッフたちのおかげです。これまでの感謝の気持ちを忘れずに、これからも見かけたときにJINSだとひと目でわかる安心感のあるお店づくりに継続して力を入れていこうと思っています。
というのも、JINSの全国的な認知度はまだまだ低いと感じていて。500店を通過点としてこの先も店舗を増やし、JINSのビジョン『Magnify Life』をもっと多くの人に知ってもらいたいんです。
お店に来たときよりも、ちょっと笑顔になってお店をあとにする。そんな『JINSらしい体験』を追求し広く届けていこうと思います」
JINSの歴史を紐解きながら、店舗開発部の「大切にしていること」を語った廣田。インタビューから見えてきたのは、現状維持をよしとしない、チャレンジ精神に満ちた店舗開発部の姿でした。
この先もまだまだ続くJINSの変化と進化の道。今後の挑戦にますますご期待ください!
※「JINS福岡天神ビブレ店」「ジンズガーデンスクエア」はすでに閉店しております。
CREDIT
取材・執筆:森川紗名
写真:小池大介 Kenta Hasegawa 阿野太一
デザイン:株式会社ASA
編集:春田知子(株式会社ツドイ)